ピュア B0000QX074
■Amazonエディターレビュー ニュージーランド出身の16歳の少女ヘイリー(1987年生まれ)のインターナショナル・デビュー盤。人を懐かしい気分にさせる、不思議な声の響きである。透明で、柔らかく、永遠的で、ちょっと少年のようだ。 ヘイリーは祖父母の代はアイルランドにルーツを持つ、音楽好きの大家族に育った。ヴォーカルレッスンはほとんど受けなかったにもかかわらず、音楽教育なしでも絶対音感をいつの間にか身に付けていたほど、音楽的な環境だったようだ。家族ぐるみのストリート・ミュージシャンから出発したというが、ヘイリーの声は土の匂いというよりは、風の香りがする。思春期の少女特有の無垢な愛が、歌に満ちている。 選曲は幅広く、ポップス、クラシックはもちろんのこと、ヘイリーが子どもの頃から歌ってきたマオリの美しい伝承歌も数曲含まれている。レコーディングにはビートルズとのコラボレーションで有名なサー・ジョージ・マーティンが参加、その息子でクラシックにも精通しているジャイルズ・マーティンがプロデュースしている。アレンジはアコースティック・ギターとオーケストラを主体にしたアメリカン・ポップス調で、とても親しみやすい。 「ネヴァー・セイ・グッバイ」では、《亡き王女のためのパヴァーヌ》のあの冷たいラヴェルの輝きが、暖かくほんわかとした上質なポップスに変わっている。オルフの《カルミナ・ブラーナ》からの美しい1曲「天秤棒に心をかけて」も、このうえなく清純。ヴォーカリストにとっては至難の歌である、ケイト・ブッシュの代表曲「嵐が丘」をやすやすと高音で歌っているのにはびっくりするが、小悪魔的な妖精ケイトに比べ、無垢で善良な少女っぽいヘイリーの個性が新鮮だ。いくつかの書き下ろしの新曲も、どれも素晴らしいメロディである。 日本盤のみのボーナストラック「メアリー・ディド・ユー・ノウ」はニュージーランドでローカル・リリースしたヘイリーのセカンド・アルバムからの1曲で、ヘイリー14歳のときの歌。ギター1本の伴奏による素朴で哀しげな歌がいい。欲を言うなら、録音にはかなりエコーがかかっていて、空間の広がりを演出しているが、これが聴きやすい反面、もっと生々しい素のままの声も聴いてみたくなる。きっと、そのままでもじゅうぶんに天使の声に違いない。(林田直樹) |